第7回:SPECTとPET

 SPECT検査とPET検査はどのようなものなのでしょうかという質問をいただきましたので、今回はそれにお答えします。物忘れの話はちょっとお休みです。

SPECT検査とは

 SPECTは、single photon emission computed tomographyを略したもので、日本語では単光子放出断層撮像法といいます。神経内科で扱う病気については、脳の血流量を画像化したり、部位毎の値を求めることをSPECTで行い、診断に役立てています。実際の検査では、まず放射能を出す薬(トレーサ)を静脈注射します。このトレーサは、脳血流量に応じて脳内に分布しますから、血流の多いところには放射能が多いことになります。注射してしばらくした後に、頭の外からSPECT装置で脳の中に分布した放射能を測定して、コンピュータを使って分布の状態を画像にします(図1)。検査は安全ですが、脳に分布している放射能を測定しているときにはじっとしていなくてはいけません。動いてしまうと正確な測定ができません。

薬を注射します 注射後、ベッドに横になり、
頭の中の放射能を測定します
コンピューターで画像を作ります

図1

                  

PET検査とは

 PETは、positron emission tomographyを略したもので、日本語では陽電子放出断層撮像法といいます。脳局所の血流量や代謝量を測定し、その値を画像にすることができます。
PETの原理を図2にまとめました。PET検査で用いるトレーサは、サイクロトロンで作られたポジトロン放出核種で標識して作ります。SPECTで使用されるトレーサは、その薬品を作っている会社から供給されますが、PETで使用するものは、現時点では自分の施設で作らなくてはいけません。従って、ポジトロン放出核種を作るサイクロトロンと薬品を作る装置が必要になり、PET検査ができる施設は限られています。
 PET検査により、脳血流量だけでなく、脳が消費する酸素や糖の値を測定して画像にすることができます。この他にも自施設でトレーサを開発すれば、いろいろなものを測定したり画像にすることができます。

   

図2 PETの原理

SPECT / PETとCT / MRIの違い

 CT / MRIでは脳の構造上の変化を知ることができます。SPECT / PETでは、脳の機能変化を知ることができます。脳血流や代謝量は神経細胞の機能と相関しているので、脳の機能変化を知ることができるわけです。

 たとえば、脳の萎縮は歳をとることやアルツハイマー型痴呆で認められます。アルツハイマー型痴呆の初期には正常な加齢による萎縮と区別はできません。しかし、SPECT / PETにより脳血流や代謝を調べるとアルツハイマー型痴呆では、側頭葉や頭頂葉で低下しているという所見が得られ(第6回の図2)、同じように見える脳萎縮でもその機能変化に違いのあることがわかります。

 脳梗塞で、CT / MRIでは異常のない領域にSPECTで血流の低下が検出され、その部分の脳機能低下がわかります(図3)。
MRI 脳血流 BZR

図3:運動性失語を呈した脳梗塞例

MRIでは、大脳皮質には異常ないが、白質に梗塞巣を認めます(矢印)。 脳血流イメージでは、左前頭葉皮質に血流低下を認めます(矢印)。 BZRは、ベンゾジアゼピンレセプターを画像化したもので、神経細胞を見ていると考えます。血流低下していた部分(矢印)の神経細胞は保たれています。 この例での血流低下は、梗塞により神経細胞が減ったのではなく、脳の機能低下によるものであることがわかります。左前頭葉のこの領域は言葉を話す中枢であり、この例の運動性失語症状のあることを説明できる所見です。

SPECTとPETのどちらをしたらよいのでしょうか

表にSPECTとPETの違いを示しました。PET検査ができる施設は少ないので、SPECT検査の方が一般的です。分解能といって、小さな範囲の異常をみる能力はPETの方が優れています。しかし、検査結果を解析する方法にも進歩があり、SPECT検査でも神経疾患の診断に十分に役立つ所見が得られます。糖代謝、酸素代謝、そして動脈から酸素を脳組織が取り出している割合など、PET検査でないとわからないことが必要な時以外は、SPECT検査で十分であると思います。

表:SPECTとPETの違い
  SPECT PET
検査可能な施設  多い 少ない
サイクロトロン 必要ない 必要
分解能 劣る 優れている
測定できるもの 脳血流 脳血流、脳酸素代謝
脳糖代謝など

*当診察室にご来院の患者さんの姓名は全て仮名です。

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