ご長寿よろず診察室は、高齢者に多い病気について書いてきましたが、認知症についての話題が多くありました。認知症は、まれな病気ではなく、高齢者には普通に見られる病気の一つであるということも、人々に認識されてきています。第23回は、肺炎になった認知症の吉川さんについて話しました。肺炎は、認知症の人の生命に影響を与える疾患です。肺炎だけでなく、認知症の人を介護するときには、健康管理にも気を配ってあげないと良い介護はできません。今回は、認知症の人の健康管理について話します。 |
認知症の人は自分で健康を管理することが困難 |
認知症の人の健康管理も、基本的には認知症のない人と違いはありません。認知症の人は高齢者が多いので、認知症以外にいくつかの病気を同時に持っている人が多いと思います。認知症の人は、症状があっても適切に訴えられない、理解力や判断力の障害がある、自分で服薬を正しくできないということもあり、自分で健康を管理することが難しいわけです。したがって、介護をしている人が健康管理を手伝う必要があります。
健康管理は、心の健康管理と体の健康管理の2つに分けて考えると良いと思います。
|
心の健康管理 |
石川さん(仮名)は、軽度のアルツハイマー病で、外来に通院しています。同居している娘さんから、母(石川さん)が、元気がなく、食欲もなく、部屋から出てくることが少なくなったので、認知症が悪化したのではないかと心配であると相談を受けました。いつ頃からそうなったのか聞くと、デイケアに行くようになってから段々と元気がなくなってきたと言うことでした。1ヶ月前の外来では、歌を歌ったり、工作のようなことをしたりしてデイケアは楽しいと言っていましたから、その後に何か元気が無くなるようなことがおきたと思いました。娘さんには、次回の受診までにデイケアでどんなことをしているのか、確認してきて下さいと頼みました。
次の診察の時に、どんなことをしているのかがわかりました。みんなで歌を歌ったり、紙で何かを作ることは変わりはなかったのですが、頭の訓練のために、簡単な計算ドリルのようなものをするようになったことがわかりました。石川さんは元々計算が苦手で、他の人と比べて、終わるのに時間がかかっていたようでした。
石川さんに、計算ドリルのようなことは好きか聞いてみました。簡単なものはできないといけないと思うけれども、好きではなく、計算するより歌を歌う方が良いという返事をもらいました。私の患者さんの中には、計算ドリルをするのが楽しくてしょうがないという人もいますが、石川さんには、不向きであったようです。
その後、石川さんは、デイケアに出かける施設を変更しました。元気が出て、外にもでるようになり、娘さんも認知症が進行したわけではなく、少し抑うつ的になっていたことがわかり安心をしていました。
認知症の人の中には、他の人ができたのに自分ができなかったりすると気分がふさぎ込んで、引きこもりになることがあります。おそらく石川さんも、精神的なストレスから、抑うつ的になっていたようです。気分が沈んでいないか、意欲が無くなっていないかなど生活の様子を観察し、睡眠や食欲などにも注意を払い、心の健康にも気を配ることがよい介護につながります。
|
体の健康管理 |
認知症以外には病気のない人でも、正常な同年代の人と同じように年に1回は健康診断をしておくことは必要です。そして、以前から持っている病気の管理をして、脳梗塞や脳出血などによる後遺症があれば、その悪化を防いで、残っている機能を維持することを心がけます。
認知症の人の場合には、服薬の管理を手伝うことが必要ですし、十分な栄養をとることや、運動を心がける生活ができるように手伝ってあげる必要があります。
言動や行動に変化が観察されたときは、脳卒中や肺炎などの偶発症や、薬の作用によることも考えなくてはいけません。たとえば、いつもよりも反応が悪く、フラフラしているときは、睡眠薬やかぜ薬などの作用によることもあります。
適度な運動は、高血圧や糖尿病などの良好なコントロールを保つたっめにも役立ち、心身ともにリフレッシュされ、いわゆる廃用症候群の予防になります。毎日の体操や、30分程度の散歩などを行うと良いと思います。
感染の予防のためには、生活環境を整理して清潔に保ち、口腔内や体を清潔に保つなどの衛生の管理も必要です。
|
この内容の無断引用・転載を禁じます。 |
←前のお話しへ
次のお話しへ→
|