私の外来に通院している67歳の星野さん(仮名)は、右の上下肢に軽い麻痺があります。この麻痺は、2年前からあるのですが、今回はその話をしようと思います。 |
高血圧はコントロールされていなかった |
当時、星野さんは、ある会社の役員をしていました。55歳の時の健康診断で高血圧を指摘されてから、会社の診療所で降圧薬を処方してもらっていました。しかし、特別に自覚症状はなく、仕事が忙しいこともあり、きちんと薬は服用していませんでした。 |
突然始まった頭痛 |
2年前の1月のある朝、会社で仕事中、突然に頭痛を感じ、気持ちが悪くなりました。部屋のソファーで横になって休もうと思い立ちあがったところ、右手がしびれた感じがし、右足がなんとなくもつれたような感じで、いつものように歩くことができず、床に倒れてしまいました。同じ部屋にいた秘書が手伝って、ソファーに寝かせたのですが、気分の悪さが続き、吐いてしまいました。そのうち、秘書が声をかけても、反応がなくなり、眠ってしまったような状態になりました。そして、救急車で病院に来たわけです。 |
診察をしてみると |
血圧は210/110mmHgと高く、名前を呼ぶと目を開けましたが、すぐ閉じてしまい、舌を出してくださいなどの簡単な命令に従うこともできませんでした。そして、左の上下肢は動かしていましたが、右の上下肢は全く動かすことはなく、持ち上げてもすぐに落下してしまいました。したがって、意識レベルの低下と右上下肢に麻痺のあることがわかりました。 |
CTを行ってみると |
頭のCTでは、左側に出血が認められました(図)。一部は側脳室に穿破していました。脳出血と診断をし、入院してもらいました。 |
図:CT 左側に血腫(青矢印)、脳室に穿破(赤矢印)も認められます。 |
脳出血について |
典型的な脳出血の症状は、星野さんのように突然の頭痛、嘔吐で始まり、部位により麻痺や失語などの神経の症状が見られ、時には意識レベルが低下してきます。原因は、高血圧が最も多いですが、脳動脈瘤や動静脈奇形からの出血ということもあります。高齢者では、アミロイドアンギオパチーという状態からの出血もあります。星野さんの場合は、高血圧以外には原因がなかったことより、高血圧性脳出血と診断をされました。
星野さんには、脳の腫脹を抑えるための薬が投与され、内科的に治療が行われました。しかし、場合によっては、外科的に血腫を吸引する治療が行われることもあります。
|
その後の経過
|
星野さんの意識レベルは徐々に回復をし、2週間後には清明になりました。そしてリハビリテーションが行われ、麻痺はほとんど回復をしました。それ以来、星野さんは降圧薬をきちんと服用するようになり、定期的に通院をするようになりました。 |
高血圧と脳出血 |
高血圧は、脳梗塞だけでなく、脳出血の危険因子です。疫学的調査では、脳出血の発症と死亡率は1960年代と比べると減少していることが示されています。高血圧の管理がよくされるようになったことで、脳出血の発症が減少し、重症な脳出血が減ったと考えられています。星野さんの場合も、健康診断で高血圧があることがわかり、治療もされていたのですが、きちんと服用しておらず、血圧のコントロールが不十分であったことが、脳出血を起こした原因と考えられます。
高血圧は、脳卒中だけでなく、狭心症や心筋梗塞などの循環器疾患にも関係がありますから、指摘されたら早いうちからコントロールをしておくことが大切です。高血圧治療ガイドラインでは、若年と中年者では135/85(mmHg)未満、高齢者では、140/90(mmHg)未満を目標にすることが推奨されています。 |
この内容の無断引用・転載を禁じます。 |
←前のお話しへ
次のお話しへ→
|