第34回:認知症の疑いがあるけれども病院に行ってくれない72歳男性

 年に3回程度片頭痛の発作のある45歳女性の金子さん(仮名)は、私の外来に時々受診してきます。ある日、自分のお父さんのことを相談しに来ました。

受診してくれないお父さん

 金子さんのお父さんは、72歳です。最近物忘れがひどく、少し前のことをすぐに忘れ、何度も同じことをきいてくるようになりました。そして、ものを置いた場所を忘れて、捜し物をしていることが1日に何回もあるようになりました。認知症の始まりではないかと思い、病院に行こうと言いましたが、病気でないから、絶対に行かないと言われてしまいました。何回か病院に行くように説得したのですが、最後には、怒り出してしまいけんかになってしまったそうです。金子さんは、何とかここに連れてくる方法はないでしょうかと、助けを求めに来ました。

自分は、病気ではない

 第14回のよろず診察室で話をしましたが、認知症の人は、自分で病気とは思っていません。したがって、家族から病院に行こうなどと言われても、行く必要がないと思います。多くの人は、診療所や病院には出来ることなら行きたくないと思っているはずです。まして、物忘れがあるから病院に行こうなどといきなり言われれば、怒り出すのは当然と思います。

何か良い方法は

 この様なときにはどうしたらよいでしょうか。いくつかの方法があります。

正攻法としては、物忘れは年をとれば誰でもありますが、病気の始まりということもあるし、早く病気が見つかれば、進行を遅くしたり、良くなる病気もあるので、一度みてもらいましょうという言い方があります。ほとんどの人は、この様な伝え方をすれば行ってくれるのではないかと思います。

 2番目の方法は、かぜや、腹痛などで受診したときや、インフルエンザの予防接種などで受診したときに医師に認知症の疑いのことを伝えて、診てもらう方法です。

 3番目は、健康診断として、診てもらう方法です。診療所や病院に行きたがらない人は、おそらく健康診断も定期的には行っていない人が多いと思います。そのようなときには、たまには、健康診断を受けましょうと言えば、行ってくれることがあります。

 4番目は、家族が受診するから一緒についてきて下さいと言って、診てもらう方法です。例えば、夫に認知症の疑いがあるけれども受診してくれないときは、妻が何らかの理由を作って受診するときに一緒に連れて行き、あなたもついでに診てもらいましょうといって診察を受ける方法です。

金子さんのお父さんは、

金子さんのお父さんは、奥さんと娘さんが根気よく正攻法を試み、3ヶ月かかりましたが、受診してきました。

受診時のアドバイス

 受診するときには、家族や周りの人は、おかしいと思ったことがいつ頃からあり、内容を具体的に書いたメモを持って行くと良いと思います。メモがあれば、患者さんの前でおかしいと思ったことを話さないで伝えることが出来ます。

 アルツハイマー型認知症の場合は、進行はゆっくりですが、放っておくのはよくありません。いろいろな方法を使って受診する方が、結局良いことにつながります。

新しい装置が設置されました

 日本医科大学武蔵小杉病院健康管理科には、物忘れがあるかどうかを、簡単に自分で判定できる装置が設置されました。ドックや、健康診断の時に利用をしてみて下さい。


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