第36回: 年齢相応の脳の萎縮といわれ、安心をした78歳女性

 一色さん(仮名)は、78歳の女性です。高血圧症で通院していますが、検査を受けることが大好きです。年に1回は健康診断のほかに、いろいろなドックを受けています。先日も脳ドックに行ってきた話をしてくれました。

脳ドックに行った理由

一色 「先生、私は最近、人の名前が思い出せなかったり、何かをしようと思って別の部屋に行ったのに、何をするんだったか忘れてしまうことがあるんです。テレビの番組で、物忘れは認知症の症状といっていたので。脳ドックに行ってきました」

どんな検査をしたのでしょうか?

「どんなことをしたのですか?」
一色 「話をして、先生がしてくれるみたいに手を挙げたり、ハンマーで叩かれたりしました。その後、頭のMRIと血管をみるとかいうMRAをしました。それから、他のドックと同じように採血や心電図も検査しました。」
「結果はどうだったのですか?」
一色 「心配するものはないといわれました。MRIでも年齢相応の脳の萎縮があるだけで、大丈夫と言われました。」
「それはよかったですね。物忘れも心配ないと言うことですか。」
一色 「物忘れについては、特に何も言われなかったのですが、大丈夫ですよね。脳の萎縮も歳相応だし。アルツハイマーだったら、脳が縮んで。ひどい萎縮があるんですよね。テレビでそう言ってましたから。」(図)
 

一色さんの物忘れは、心配ないでしょうか?

  第4回と第5回の診察室の内容を思い出してください。病気の物忘れは、生活に支障があります。MRIをしても認知症かどうかはわかりません。萎縮が軽く、年齢相応ということでアルツハイマー型認知症でないと言うことは出来ません。

 認知症かどうかは、生活が今までと同じように出来ているかどうかをみなくてはいけません。物忘れや他の認知機能の障害により、生活に支障があれば認知症ということになります。認知症の人は自分では正常と思っていますから、周囲の人(家族)からみてどうかということをきく必要があります。

 MRIでは、アルツハイマー型認知症の人には脳の萎縮がありますが、年齢相応の程度から高度まで様々です。多くの場合、認知症が軽度のうちは萎縮も軽いことが多いと思います。ですから、年齢相応の萎縮ということで、アルツハイマー型認知症でないということは出来ないわけです。

 脳が萎縮したらアルツハイマー型認知症になると心配する人が時々います。これは、間違いです。脳が萎縮したから認知症になるのではなく、アルツハイマー型認知症の人では、脳に病気があるので、神経細胞が死んで数が減り、その結果、MRI検査をすれば、脳の萎縮が検出されるわけです。

 一色さんの場合、脳ドックでは、物忘れについては正常の範囲か病気なのかの区別は、十分にされていなかったようです。そこで、第6回の診察室で話をしたような診察をして、次回の診察時には、生活の様子をきくために、家族の人と一緒に来てもらうことにしました。

物忘れが心配なら受診しましょう

 今回は、認知症についての復習のようなことになってしまいましたが、物忘れが心配なときは、診察を受けるのがよいと思います。脳ドックの多くは、アルツハイマー型認知症を見つける事が目的でなく、脳血管障害の有無や脳動脈瘤を見つけることが主な目的と思います。物忘れ外来があれば、そこで診てもらうのも良いと思います。 


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