第39回:体重減少は認知症発症の予知?

 肥満は、健康によくないと言われていると思います。では、やせていることはどうでしょうか。やせている人は、悪性腫瘍にかかりやすいなどともいわれ、良いことばかりではないようです。高齢者にも太っている人もやせている人もいます。若い時から太っており,高齢になってもそのままである人もいれば,高齢になったらやせてきたという人もいます。

認知症とやせ

 認知症の患者さんにもやせている人もいれば、肥満の人もいます。すべての患者さんに当てはまることでは有りませんが、私の印象では、認知症が進んでくると体重が減少してくる人が多いと思っていました。その原因の一つには、自分の欲求を伝えたり,自分で食事の献立を考えたり準備ができなくなるので、出されたものを食べるようになることにあると思います。介護施設に入所した人では、カロリーが計算された食事をとるようになります。したがって、肥満の人は以前よりも摂取カロリーがバランスのとれたものになり、体重が減少してきます。

認知症の人の体重減少はいつ頃から始まるのか

 体重が減ってくることが認知症になる前からあるというアメリカでの研究結果があります。

 この研究では、体重減少とアルツハイマー病の発症に関係があるかをみています。そして、アルツハイマー病になる人と認知症にならない人について、65歳から95歳の期間の体重変化の程度の特徴の違いを検討しています。

 449人の認知症のない正常な高齢者について、ワシントン大学医学校のアルツハイマー病研究センターで、平均6年間の体重変化の程度が調査されました。体重は1年ごとに測定されました。調査期間中に125人がアルツハイマー病を発症し、残りの324人は認知症にはなりませんでした。

 その結果、認知症のない人は年に約0.6ポンド体重は減少していました。アルツハイマー病になった人は、発症する1年前の体重減少は2倍の約1.2ポンドでした。アルツハイマー病になったグループは、認知症にならなかったグループより、研究に参加した時の体重は約8ポンド少なかったことが明らかにされました。

アルツハイマー病になる前に体重は減少している

 したがって、認知症のあるなしにかかわらず歳をとることは体重減少と関係があり、体重はアルツハイマー病と診断される前から減少が速くなることがわかりました。なぜ体重減少がおきるのかは不明ですが、体重が減少することはアルツハイマー病の発症を予知するものかもしれないということです。

まとめ

 認知症になりやすい人を予知することについては、たくさんの研究が行われています。この研究結果もその一つにすぎませんし、アルツハイマー病発症の機序と体重減少の科学的な関係はまだ明らかではありません。したがって、体重が減ってきたからといって、アルツハイマー病になるのではないかと心配する必要はないと思います。

 2007年最初のご長寿よろず診察室も、認知症の話になってしまいました。3年2ヶ月前に始まったこの診察室で一番多く取り上げた話題は認知症です。インターネットでこの診察室を見ていただいている方からも、いろいろな反響をいただいています。これからも、認知症ばかりでなく、高齢者の神経疾患についての身近な話題を取り上げていこうと思っていますので、ご質問やご意見などをメールで送っていただきたいと思います。


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