第43回:気持ちが悪くなり、意識が無くなった73歳男性

 二日前に電車の中で気持ちが悪くなり、途中の駅で降りてベンチに腰掛けたところまでは覚えているが、その後意識が無くなり、次に気がついたときは救急車の中であったという、73歳男性の小川さん(仮名)が奥様と一緒に来院してきました。

 小川さんは、救急車で病院に運ばれ、頭部CTスキャン検査を受けました。検査では異常はなく、意識も正常になっていたので、近いうちに近所の病院を受診してみてくださいと言われたそうです。

診察では

 小川さんは、今まで特に大きな病気をしたことが無く、薬も服用していませんでした。内科の診察でも異常はなく、四肢の麻痺など神経学的診察でも異常はありませんでした。

意識が無くなったときの様子を詳しく聞いてみたところ

 大学の同窓会の帰りで、お酒を少し飲んでいました。電車の中では立っていました。何となく気持ちが悪くなり、そのうち目の前が、チカチカして暗くなったような感じがあり、よく見えなくなってきたということでした。ホームに降り、ベンチがかすかに見えたので座ったところ、わからなくなってしまいました。

失神

 小川さんの意識消失を失神といいます。失神は、一過性に脳の血流が低下することにより生じます。てんかんとの鑑別が大切です。てんかんでは、失神と比べると意識の回復に時間がかかり、尿失禁を伴ったり、四肢の痙攣のあることが多いと思います。

原因は

 小川さんのように突然に意識消失を起こすことは、若い人でもありますが、高齢者でも見られます。失神の原因は沢山あります。

 心臓の病気では、不整脈があります。突然に脈が不整になり、十分な血液が脳に供給されなくなって、意識消失を起こします。このときに痙攣を伴うこともあります。心電図を検査したり、ホルター心電図検査や心エコー検査が必要です。この他、大動脈乖離の発症時のこともあります。この場合には、背部痛や胸部痛を伴っていることが多いと思います。診断するためには、胸部レントゲンや胸部のCTスキャン検査が必要です。心臓の病気の場合は、命に関わる可能性が大きいので、早く診断をして治療を受ける必要があります。

 お酒や薬(降圧薬)の服用により血圧が下がりすぎたり、排尿により意識消失したりすることもあります。

 食事中に突然意識消失することもあり、神経の病気ではパーキンソン病患者さんに時々認められます。

小川さんの場合

 脳波、心電図、ホルター心電図などの検査では異常はありませんでした。お酒を飲み。電車の中で立っていたことにより、血圧が下がり、脳に十分な血液が行かなくなり、その結果、意識消失してしまったと考えました。特に治療をすべき病気がなかったので、お酒を飲んだ時は注意をしてくださいと、話をいたしました。

まとめ

 今まで特に症状のない人が突然一過性に意識消失だけを来す発作を起こしたときに、神経内科や脳神経外科を受診してくることがよくありますが、不整脈発作が原因であると命にも関わってきますから、まずは循環器内科を受診するのがよいと思います。


この内容の無断引用・転載を禁じます。

←前のお話しへ

次のお話しへ→