佐藤(仮名)さんは、75歳の男の方です。68歳まで自動車会社で仕事をしていました。今まで病気もなく、退職後は趣味の庭作りや囲碁をして元気に過ごしています。
1ヶ月前に、子供達がすすめるので、ある病院の脳ドックに申し込み、頭の検査を受けてきました。先日その結果を聞きに行ったところ、小さな脳梗塞が2カ所にありますが、心配することはありませんと言われたそうです。 自分では、体も丈夫で、脳の働きも正常で、同年代の人よりも元気で活発だと思っていたのに、知らないうちに脳梗塞をおこしていたと言われ、急に心配になったそうです。 それ以来、脳梗塞をまたおこすのではないかと不安で、食欲もなく、夜もよく眠れなくなったと訴えて来ました。
無症候性脳梗塞とは
佐藤さんは、今まで手足の麻痺やろれつが回らないなどの症状をおこすような脳梗塞の発作をおこしたことはありません。 しかし、MRI検査で脳梗塞がみつかっています。いつであったのかはわかりませんが、知らないうちに脳梗塞をおこしていたわけです。 このように、MRIやCTなどの画像検査でみつかる脳梗塞で、症状をおこしていないものが無症候性脳梗塞です。
図:MRI T2強調画像
左:無症候性脳梗塞のある人(矢印) 右:無症候性脳梗塞のない人
手足を動かすような運動機能、言葉を理解したりしゃべったりする言語機能などそれぞれの機能により関係している脳の場所は決まっています。そういった機能に関係していない部位に脳梗塞を生じても症状は出ないことになります。
無症候性脳梗塞のある人は症状のある脳梗塞になりやすいのか
無症候性脳梗塞のある人がどうなるのかを調べたことがあります。脳ドックのMRI検査で無症候性脳梗塞のあった人を3年間経過を追ったところ、症状のある脳梗塞をおこした人はいませんでしたが、約9%の人に無症候性脳梗塞の数が増えていました。 糖尿病のある人の36%、糖尿病と高血圧の両方のある人の42%に数が増えていました。しかし、無症候性脳梗塞のある人ではない人の約10倍、症状のある脳梗塞をおこしやすいという報告もあります。
無症候性脳梗塞のある人はどうしたらよいのか
無症候性脳梗塞も症状のある脳梗塞も基本的には同じものですから、高血圧、糖尿病などの脳血管障害と関係のある病気を持つ人では、再発予防の治療が必要と思います。 治療としては、血圧や糖尿病のコントロールを良好にして、アスピリンのような抗血小板凝集薬の投与が必要なこともあります。 しかし、何も病気のない人にみつかった無症候性脳梗塞はそれほど心配する必要はなく、特別な治療はいらないと思います。 佐藤さんには、脳血管障害と関係のある危険因子は何もないので、心配することはないと説明しました。このことを聞いて、安心した様子で帰っていきました。 その後、佐藤さんは、以前と同じように囲碁や庭いじりをして楽しく過ごしています。
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