第3回:脳ドック

 時々患者さんから脳ドックを受けた方がよいでしょうかと尋ねられることがあります。前回の話にでてきた佐藤さん(仮名)も脳ドックを受診して、MRI検査で脳梗塞が発見されています。 今回は、脳ドックについて話をします。

脳ドックとは

脳ドックは、いわゆる人間ドックのひとつです。人間ドックにより、糖尿病、高脂血症、胃潰瘍などが発見されるのと同様に、脳神経系の病気を早期発見するためのものです。その内容は、脳ドックを行っている病院や施設によって違ってきますが、脳のMRIと血管をみるMRAの検査は必ず含まれていると思います。

MRIとMRAではどのような病気が発見されるのか

脳に病気があっても、明らかな症状がなく、自分でも気がつかないような病気が見つかることがあります。佐藤さんのように知らないうちにおこしていた脳梗塞や脳出血があります。この他には、脳腫瘍、硬膜下血腫などがあります。MRAでは脳の動脈を画像としてみることができるので、動脈瘤や動脈の閉塞や狭窄がわかります。

簡単に言えば、CTは胸のレントゲン写真と同じで、外から頭に放射線を照射して、X線の組織による減弱度からコンピュータにより脳の画像を作ります。 MRIは大きな磁石の中に頭を入れたときに、私たちの脳を構成している水素や炭素などの原子核が特定の周波数の電波に共鳴して電波を発信する現象を捉えて、画像を作ります。私たちの体を作っている水素や炭素などの原子核は磁気のモーメントを持っています。棒磁石のようなものと考えて下さい。何もないところでは、たくさんの棒磁石はいろいろな方向を向いています。頭を大きな磁石の中に入れたとすると、いろいろな方向を向いていた棒磁石は一定の方向を向きます。そこに電磁波を照射すると磁気共鳴現象がおき、照射を中止すると原子核は電磁波を放出しながら元の状態にもどっていきます。この元に戻っていく過程の電磁波信号をとらえて画像を作るわけです(図)。

 MRI装置のある部屋には強い磁場があるので、MRI検査の時には時計をはずしたり、キャッシュカードなどを持ち込まないように注意されます。もし間違って、キャッシュカードを持ち込むとそのカードは使用できなくなり、時計はくるってしまいます。入れ歯は、はずせるものははずして検査をします。しっかりと固定されているものは、磁場の中でも動かないのでそのままにして検査をしますが、入れ歯が引っ張られる感じを覚える人もあるそうです。

  胸や腹の手術をして、体に金属が入っている人で手術をしてからまだ間もない人は、それらの金属が動いてしまう可能性があるので、通常はMRI検査は行いません。脳動脈瘤に対してクリップを入れてある人は、クリップがはずれる可能性があるとされており、ペースメーカーの入っている人も正常に動作しなくなる可能性があるので、MRI検査は行いません。 脳ドックに含まれている内容によって意義は違います。MRIやMRAは必ず検査項目に含まれていますから、早く見つかることで治療ができる病気や予防ができる病気を見つけることに脳ドックの意味があると思います。早期発見で治療ができるものには、脳腫瘍や硬膜下血腫があります。予防ができるものとしては、未破裂動脈瘤を発見して、治療をし、その破裂を防ぐことがあります。また、無症候性脳梗塞が発見されたことをきっかけにして、脳梗塞を発症する危険が高い人は予防の治療を開始するきっかけになることもあります。

  画像検査で見つかった病変が、意味のあるものかどうかを判断するには、神経系の診察をしておく必要があります。したがって、MRIの検査だけでなく、神経学的診察という神経系が正常どうかを見る診察も含まれている脳ドックがよいと思います。

MRIで痴呆かどうかわかりますか

 脳ドックに行けばアルツハイマー型痴呆になっているかわかりますかと質問されることがあります。MRIの検査では、痴呆かどうかわかりません。脳の萎縮があることが痴呆ではありませんし、アルツハイマー型痴呆になることを予測するものでもありません。痴呆かどうかは、記憶を始めとする認知機能(言語や行為)が正常かどうかを見る神経心理学的な診察が必要です。

症状はないけれども脳の病気が心配な人は、ドックに含まれている内容を検討して、目的にあった脳ドックを申し込むのがよいと思います。

この内容の無断引用・転載を禁じます。

←前のお話しへ

次のお話しへ→