診察室9:よくなる痴呆

今回は、良くなる認知症の続きを話します。

良くなる認知症にはどんなものがあるか


良くなる認知症の主な原因にはどの様なものがあるかを示します(表)。 

表1 良くなる認知症の主な原因
   頭蓋内疾患
        水頭症
        慢性硬膜下血腫
        脳腫瘍
        脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
  代謝異常、内分泌疾患
        甲状腺機能低下症
        ビタミンB1欠乏、ビタミンB12欠乏
        電解質異常(高ナトリウム、低ナトリウムなど)
        肝不全、腎不全
  中毒性疾患
        薬物(催眠鎮静薬、抗コリン薬など)
        金属(鉛、有機水銀など)
  精神科疾患
        うつ病

 頭蓋内疾患つまり、頭の骨の中の病気ですが、これには、水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳血管障害というものがあります。
 代謝の異常やホルモンの異常によるものとしては、甲状腺機能低下症、ビタミンの欠乏特にB1やB12があります。お年寄りが風邪などを引いて具合が悪く、食事を十分にとれないと体の中のナトリウムが欠乏したり、また多くなることによっても痴呆様の症状が出ることがあります。肝臓の病気でアンモニアが血中に多くなったり、腎臓の機能が低下して本来なら排泄されるものが血液中に多くなり、痴呆様の症状が出ることもあります。

 中毒によるものとしては、飲んでいる薬による作用で痴呆様の症状が見られることもあります。金属によるものは、実際にはあまり問題となることはないと思います。
 精神科疾患としては、うつ病があります。うつ状態により痴呆と間違われることもあります。

様子の変わった父上

 1年前から緊張型頭痛で通院されている板倉さん(仮名)という50歳の男性がいます。その方から同居されている74歳の父上の様子が約3週間前から変であるという相談を受けました。何となくボーっとしているようで、会話をしていても以前より口数が少なく、内容もちぐはぐで、時々尋ねた事と関係のないことを答えるということでした。食事は自分ででき、散歩などには出かけていくのですが、趣味の将棋をしているのを見かけなくなったということもありました。1週間前から、ふらふらした歩き方で、家の中でも壁に手をついて歩いているということでした。そして2日前から時々尿失禁もあるということでした。板倉さんは、父上が歳をとってついに痴呆になってしまったと考えていました。

右上下肢の麻痺と理解力の低下

すぐ父上を病院に連れてくるように伝えました。

 診察をすると右の上下肢に軽い麻痺がありました。月はわかりましたが、日と曜日はわかりませんでした。会話をしていても、すぐに答えが返ってこなかったり、聞いたことを理解するのに時間がかかったり、理解してくれないこともありました。

 すぐに、頭部CTスキャンを行いました。その結果、左側に硬膜下血腫のあることがわかりました(図1)。この血腫により脳が圧迫されており、右上下肢の麻痺と理解力の低下などが症状としてみられたわけです。

赤く囲んだところが硬膜下血腫。左側の脳室は血腫により圧迫されています(矢印)。

治療は脳神経外科で

脳神経外科に紹介して手術により、血腫を洗い流してもらいました。硬膜下血腫は消失しました。麻痺も完全に良くなり、話も出きるようになり、将棋もするようになり、以前と全く同じ板倉さんの父上にもどりました。

硬膜下血腫とは

硬膜下血腫は10万人に年間1人から2人の発生があると報告されています。そのうちの70-80%に頭部外傷の既往があります。硬膜下血腫は、高齢者やアルコール多飲者に多いとされています。転倒して頭をぶつけてしまうことが高齢者やアルコールをたくさん飲む人には多くあることと関係していると思います。軽く頭をぶつけてしまったことをきっかけにして、脳の表面にある静脈から出血をして、脳の外側にある硬膜とくも膜の間に血液が貯まることになります。受傷後は無症状ですが、3週以降多くは2-3ヶ月後に発症します。症状は、頭痛、嘔吐、痴呆様症状、意識障害、麻痺、失語などがあります。硬膜下血腫も良くなる痴呆の原因の一つで、早く発見して手術をすれば症状は完全になくなります。

転倒に注意を

硬膜下血腫の多くは頭部の軽い外傷と関係がありますが、すぐに症状がでないので、中には頭をぶつけてしまったことを記憶していない人も少なくありません。板倉さんの父上も最初は頭を打ったことはないと言っていたのですが、同居している息子さんの妻が、様子の変わった3週間ぐらい前に父上が家の廊下で滑って、壁で頭を軽く打ったことを思い出してくれました。これが血腫の原因になったのかもしれません。

高齢者は脳神経系の老化により若いときよりバランスをとりにくく、その他の高齢者のいろいろな特徴により転倒しやすいことを第1回目の診察室に書きました。

 転倒すると硬膜下血腫だけではなく骨折をおこすことも少なくありません。骨折をきっかけにして、運動能力や精神的な活動性が低下してしまうこともあります。転倒しないように気をつけましょう(図2)。

おじいちゃん、気をつけて!

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