第12回:手のふるえ

 前回は、パーキンソン病の話をしました。パーキンソン病の症状のひとつに手のふるえ(振戦)があると書きました。手のふるえがあるとパーキンソン病を疑うことは、新聞の記事、テレビ番組、健康雑誌などからたくさんの人が知っているようです。そのためか、手がふるえるのでパーキンソン病ではないでしょうかと言って、受診してくる方もいます。しかし、ふるえがあってもパーキンソン病とは限りません。むしろそうでないことが多くあります。
 今回は、ふるえについて話をします。

ふるえの種類

表. ふるえには、4種類あります。

ふるえの種類 出現する時 見られる病気
①安静時振戦 安静時 パーキンソン病
②姿勢時振戦 一定の姿勢時 本態度性振戦
老人性振戦
肝性脳症
甲状腺機能亢進症 など
③企図振戦 何かしようとしたとき 脊髄性小脳変性症
小脳や中枢の梗塞・出血
小脳腫瘍
多発性硬化症 など
④動作時振戦 動作時 脊髄性小脳変性
多発性硬化症 など

 ① 安静時に出現するものを安静時振戦といいます。椅子に座ってじっとしているときや、静かにベットに横になっている時などに手や足がふるえるのが安静時振戦です。腰掛けた姿勢で、手のひらを上にして、両手を膝の上に置いてみて下さい。体の力を抜いてじっとしている状態で手がふるえれば安静時振戦です。手を動かす(動作時)と、ふるえはなくなります。

 ② ある姿勢をとったときにふるえるのが姿勢時振戦です。たとえば上肢を前方に挙げて、そのままの姿勢を保っているときに手がふるえるのがこれに当たります。

 ③ 3番目は企図振戦です。何か動作をしようとしたときに出現します。たとえば、人指し指を自分の鼻の頭に持っていく動作の始めや、鼻に近づいたところで手がふるえてしまい、指先を鼻に付けることができなくなります。

 ④ 最後の動作時振戦は、ある動作をしているときにみられるふるえです。例えば、人指し指を鼻の先に付けようとした時に鼻に指が到達する間に出現するふるえです。指が鼻につくと消失します。指を鼻に付けるという一連の動作をなめらかに連続して行うことができないので、手がふるえてみえます。

ふるえがでる部位

ふるえは、手(上肢)、足(下肢)、そして頭にみられます。その他に、声の振戦というものがあります。一定の声で長く「アー」と言ったときに、声がふるえてしまうのがこれに当たります。

ふるえがある時にはどんな病気があるのでしょうか

振戦がみられる病気を表に示しました。(上の表)
 後にでてくる本態性振戦でもみられることがありますが、安静時振戦のときは、パーキンソン病をまず考えます。
 姿勢時振戦がみられる病気はたくさんあります。一番多いのは、本態性振戦です。本態性振戦は、よくみられるもので、人前で字を書くときに手がふるえたり、茶碗を持ったり急須からお茶を入れる時にふるえるのがこれに当たります。原因は不明です。しかしパーキンソン病と違って他の症状はなく、悪化していくこともまずないので、生活に支障がなければ、特に治療の必要はありません。歳をとってからふるえるようになったものを老人性振戦と言うことがありますが、これも本態性振戦と考えてよいと思います。
 甲状腺機能亢進症の時にも細かい手のふるえがみられます。肝臓の機能が悪くなって血液の中にアンモニアが増えた肝性脳症では、手首をそらせた(伸展)時に両手を羽ばたくようなふるえがみられます。

 企図振戦や動作時振戦は、小脳の病気でみられます。小脳の腫瘍、脊髄小脳変性症、小脳の血管障害(小脳梗塞、小脳出血)などです。

ふるえがある時にはどうしたらよいでしょうか

 姿勢時にふるえがあるが、生活には支障がなく、ひどくなってこない時は本態性振戦がほとんどなので、そのままでよいと思います。本態性振戦はお酒を飲むと軽くなりますが、これを治療に使うわけには行きません。生活に支障があるときは、神経内科を受診してβ遮断薬をを投与してもらうとよいと思います。姿勢時のふるえがみられる病気はたくさんあるので、他にも症状がある時は、受診した方がよいと思います。

 安静時のふるえはパーキンソン病がほとんどですから、神経内科を受診しましょう。

 何か動作をしようとしたときや動作時のふるえは、小脳の病気が考えられますから、神経内科を受診した方がよいと思います。

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