第49回:手首を伸ばせなくなった68歳男性

 目が覚めたら、左の手首が伸ばせなくなっていたという並木さん(仮名)という方が、外来を受診してきました。

同窓会に出席

 並木さんは、5年ぶりに高校の同窓会があり楽しく過ごし、2次会まで出席し、かなり酔って夜10時ころに帰宅をしました。奥さんが作ってくれた夜食のうどんを食べて、ソファーに座ってテレビを見ていましたが、そのまま寝てしまったそうです(図 1)。夜中の2時ころに奥さんに起こされ、ベッドに行きました。その時は左手がしびれていましたが、手首の異常には気づいていませんでした。


図 1.図 2.

 朝起きて、初めて左の手首がおかしい事に気づきました。手首を伸ばそうと思っても伸ばすことができず、手首から先が下がったままで、お化けの手のようになっていました(図 2)。脳卒中になり、手が麻痺してしまったと思い受診をしてきました。

診察では

 肩や肘は正常に動かすことができました。手関節(手首)は、屈曲することはできましたが、伸長することはまったくできませんでした。

診断は

 脳卒中でなく、左側の橈骨神経麻痺と考えました。手関節(手首)を伸展(伸ばす)させる筋肉は橈骨神経と呼ばれている末梢神経に支配されています。この神経が障害されると手関節が伸展できなくなります。原因は、おそらくソファーで寝ている間に、橈骨神経が肘掛けで圧迫されたことによると思いました。並木さんの奥様に確認したところ、左腕をソファーの肘掛けにかけた状態で寝ていたことがわかりました。上腕部で、橈骨神経が圧迫されていたわけです。

治療は

 橈骨神経麻痺の治療は、ビタミンB12の投与とリハビリテーションです。普通は、後遺症もなく改善します。並木さんの麻痺も、3週間後には元に戻りました。

稀に

 橈骨神経麻痺と同じような症状が、小さな脳梗塞や脳出血で見られることがあります。並木さんのように神経が圧迫されるような状況がない時は、頭のCTやMRIを行うことも必要です。

 橈骨神経麻痺は、外傷、筋肉注射などでもおきますが、変な姿勢で寝てしまい、上腕部が圧迫されておきることが日常生活の中で時々みられます。腕枕をしてあげて寝てしまった時や、肘掛けに片腕をかけて電車の中で寝てしまい、目が覚めたら腕がしびれて、手首が伸ばせなくなってしまったという話は時々聞きます。これから忘年会のシーズンですが、酔ったときのうたた寝には注意をしましょう。


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