第50回:右手の麻痺と感覚障害のみが生じた70歳男性

 山中さん(仮名)は、本屋さんを経営しています。ある日、本にカバーをかけている時に、いつものように紙を折ることがうまくできず、右手の感覚がおかしいと感じました。手を振ったりマッサージをしてみましたが、右手がしびれているような感覚は消えず、右手指の動きもぎごちないことがわかりました。右手首で何か病気が起きたのではないかと思い、受診することにしました。

病院へ

 右手だけがしびれていると言って、受診をしてきました。診察をしてみると、確かに、右手関節から先の運動麻痺があり、右手の痛覚と温度覚(暖かいか冷たいかの区別)の低下がありました。

 症状は突然に始まっており、脳血管障害を疑いました。

MR検査

 すぐに、検査をしてみました。するとdiffusion imageで左側に小さな脳梗塞のあるのがわかりました(図)。
図:中山さんのMR diffusion image
  矢印で示したところが脳梗塞
 この脳梗塞は、手の運動や感覚を司ってる領域と一致する場所にあります。脳梗塞だからといって、必ず半身麻痺がみられるわけではありません。脳梗塞の起きた場所に関係する症状が出ます。中山さんは、右手の運動と感覚に関係する領域に脳梗塞が起きたので、その症状が認められました。前回(第49回)の話の中で、橈骨神経麻痺のように見えても脳血管障害によることもあると言いました。中山さんの症状も手関節から先だけなので、手関節の近くで末梢神経が障害されたと間違わないようにしなくてはいけません。

 脳梗塞の治療をして、中山さんの症状はほとんど改善をしました。

お知らせ

 今回で、50回となりました。始めてから、4年2ヶ月たったことになります。最初の頃は、認知症についての話がこれほど多くなるとは思いませんでした。市民が認知症について理解するようになり、アルツハイマー病治療薬もあることから、受診をしてくる軽度の認知症の患者さんも増えました。周囲の人が助けてあげることで、認知症があっても、今までと同じように生活をすることが可能です。
 厚生労働省は、認知症であっても安心して暮らせる街ができることを理想としています。

 日本医科大学老人病研究所は、文部科学省学術研究高度化推進事業の助成を受けて、日本医科大学武蔵小杉キャンパス南館に、街ぐるみ認知症相談センターを開きました。もの忘れや認知症について相談したいときは、費用はかかりませんので、気軽に利用して下さい。

 今回で、私が担当した神経内科の病気については、ひとまず終了をすることにしました。次回からは、新しい先生がこの診察室を引き受けてくれます。役に立つ話が聞けると思いますから楽しみにして下さい。


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終わり

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