第1部
知って得する糖尿病の知識 講師 國島 修 (国島医院)
第2部
糖尿病のお食事について 講師 酒井 良子 (日本医科大学武蔵小杉病院管理栄養士)
総合司会
宗像 一雄 (日本医科大学武蔵小杉病院 副院長) |
第1部講師の國島先生(左)、第2部講師の酒井先生(右) |
平成22年7月24日(土)午後、武蔵小杉駅の近くのユニオンビルで開催されました。 35度を超す猛暑日でしたので、住民の方々は外出を控えられる状況の中で、それでも熱心な聴衆が70人以上集まってこられました。
今回は「糖尿病と正しく向き合う」をテーマに、「知って得する糖尿病の知識」を国島修先生(社団法人老人病研究会副会長、国島医院院長)が話し、その後「糖尿病のお食事について」を酒井良子先生(日本医科大学武蔵小杉病院管理栄養士)はフォローできる実践的な講座となりました。
総合司会は宗像一雄日本医科大学武蔵小杉病院副院長が務めました。 |
【第1部 國島先生のお話】
- 司会者の講師紹介で、國島修先生は自分の医学博士の論文テーマは「糖尿病における凝血学的研究」で、その後病院勤務、開業後も川崎市の内科医会で、糖尿病の専門家として地域医療を引っ張ってこられたとのことです。
- 日本人の糖尿病患者の推移で、戦後の栄養状態が悪い時期では、糖尿病患者は極めて少なかった。その後日本は裕福になるにつれ、平均寿命の伸び(老齢化)を背景に食生活の欧米化、過食、肥満、運動不足、ストレスなどに起因するⅡ型糖尿病が特に近年は猛烈に増加してきています。2007年では、糖尿病患者は890万人、糖尿病予備軍は1320万人で合計2210万人の患者になってきています。いわば成人の4人のうち一人が糖尿病かその予備軍です。しかも将来を展望する時に、小学生や中学生にも糖尿病が発症している事が懸念されています。糖尿病はインスリンの分泌低下、インスリンの抵抗性の亢進(効きが悪くなる)などにより、インスリンの相対的不足によって発症します。
- 糖尿病の進むと次のような症状が出てきます。
多尿、のどが乾き、水分を多くとる(多飲)、空腹感が強く沢山食べる、体重が減る、疲れやすい、手足がしびれたり足がつったりする。
- 糖尿病の診断:
かつては血液中の糖の量を、空腹時や食後の採血したものを測定して判断していました。空腹時血糖値で126mg./dl以上、随時血糖値で200mg/dl以上が判断の目安です。糖尿病の疑いのある患者さんには更にブドウ糖負荷試験も行われてきました。ところが最近では、世界的にヘモグロビン
エーワン シー(HbA1C) が重要視されてきています。このものは糖化ヘモグロビンとも呼ばれ、ヘモグロビンに過剰のブドウ糖が結合したものです。赤血球の寿命が120日(3か月)ですので、この指標は1-2か月前の血糖のコントロール状態の指標となっています。この値が5.8%未満では健常ですが、5.8%-6.5%では軽症、6.5%-7.0%では中等度症、8.0%以上では重症と言う糖尿学会のガイドラインがあります。今までHbA1C
の治療目標は6.5%以下としていましたが、2012年4月より6.1%に引き下げられます。
- 糖尿病はいやらしい病気:
糖尿病そのもので死亡することは極めてまれです。しかし、細い血管が詰まることにより、患者さん自身が合併症に悩むことになります。三大合併症として、糖尿病性網膜症で酷くなれば失明に陥ります。二つ目は糖尿病性腎症で、症状が進むと腎透析を行うようになります。透析は年間一人当たり150万円はかかりますので16000人分の医療費は膨大なものになります。3つ目は糖尿病性神経障害で、手足の先が痺れたり、ジンジンした痛みを伴います。さらに悪い合併症としては稀ですが足の指先が腐ってきて、痛みを伴います。なかなか治りにくいので、ひどくなれば指や下肢の切断にも至ります。その他、太い血管での合併症として脳梗塞や心筋梗塞の発症のリスクが大きくなります。これらの病気で急性期の死亡や再発での死亡が確実に高まります。特に糖尿病に、高血圧症、脂質異常症が重なって来ますと、メタボリック症候群となります。心血管疾患は下の図のごとく、危険度は急増します。
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- 糖尿病の治療は、その目標が「健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、健康な人と変わらない寿命の確保です。
そのため血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロールの維持が必要です。薬物療法も加わって来ますが、作用機序の異なる種々の薬が利用されます。また最近でも優れた新薬が出てきています。食事の後、血糖のコントロールに役立つインクレチンというホルモンが作用しますが、その作用を持続させるような新薬が万有製薬さんから発売されていますが、この薬は注目度の高い薬です。
- 平成20年度から国はメタボリック症候群に着目した【特定健診・保健指導】が義務づけられました。40~74歳の方が対象で、川崎市でも国民健康保険加入者には無料の受診券が送られています。健診でメタボが発見されれば、保健指導の対象になります。
- これらの対策は「健康フロンティア―戦略」と呼ばれ、この10年間で健康寿命をあと2年伸ばすこととしています。健康寿命とは平均寿命から日常生活を大きく損ねる病気やけがの期間を差し引いた「健康体で生活できる寿命」です。それには要介護者の減少、生活習慣病対策で、特に糖尿病では発症率を20%減少させることを目標としています。
講演終了後、フロアーの複数の方々から質問が出され、國島先生、宗像先生も丁寧に答えられて、指導されました。
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【第2部 酒井良子先生のお話し】
- 食事療法の基本:糖尿病の治療にあたっては、薬物療法・運動療法と食事療法が去れますが、特に食事療法こそが治療の基本です。糖尿病患者さんが食べてはいけない食品はありません。健常者の方々と同じ食品を食べて良いですが、要は食べ過ぎにならないよう、摂取カロリーを減らすことになります。一日のカロリーの目標は、主治医と管理栄養士の連携で、患者さんの性、年齢、体重、身長、肥満度、身体活動量(労作度)、および病態を考慮しながら決定されます。個々の患者で、1200,1440,1600,1840キロカロリー(以下Kcal)と指示されます。
- 摂取カロリー量の目標が決まると、栄養士が患者さんの食事指導をします。その際重要なことは食品交換表が用いられます。
- 食品交換表とは、種々の食品を6つのグループに分けます。①穀類・芋・炭水化物の多い野菜と種実と豆、②果物、③魚介・肉・卵・チーズ・大豆とその製品、④牛乳と乳製品、⑤油脂・多脂性食品、⑥野菜・海藻・きのこ・こんにゃく等ですが、それに調味料(砂糖・味噌・カレールーなど)に分類します。エネルギー80Kcalを含む食品の重量を「1単位」と示します。1600Kcalでしたら、20単位、1200Kcalでは15単位に抑えましょうという食事指導です。
- 1単位80Kcalは、ご飯では50グラムの茶碗半分、食パンでは30gの2分の1枚、かぼちゃ90グラム、サツマイモでは60グラムなどです。果物ではバナナ100グラム(1本)、リンゴでは150グラム(半分)などです。蛋白質の多い食品では、ニワトリのささみ肉では80グラム、アジでは60グラム、豆腐00グラム、チーズで20グラムなどです。牛乳やヨーグルトでは120グラムです。油脂食品ではバター、マヨネーズ、植物油などでは10グラムです。野菜類では緑黄色と淡色野菜の組み合わせで、300グラムです。海藻・きのこ・こんにゃくなどでは制限はありません。調味料では砂糖20グラム、味噌40グラムなどです。
- カロリー制限の中では、患者自身が自分にあった食事量を知ることです。6表の食品について多種類を選び、栄養バランスの良い食事にしなければなりません。例えば、20単位(1600Kcal)の食事では、朝食、昼食、夕食に分けてゆきます。下の表がわかりやすいものです。
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- エネルギーダウンには食材の選択や調理法もあります。例えば牛肉を食べる時、霜降り肉よりフィレ肉を、又鶏のささみ肉を選ぶという工夫もあります。又霜降り肉でも茹でることによって、脂身を少なくするとか、フライパンで調理する時フッ素加工のものを用いることにより油を節約することも留意する。さらには薄味の料理に配慮することは、砂糖やみりんを少なくするとか、食塩の減量にもつながり、糖尿病にも良いことになります。
- お酒類は禁止ではありません。アルコールのカロリーは1グラム7Kcalです。酒類では、缶ビール350mlが141Kcal、日本酒150mlは160Kcal、焼酎50mlは144Kcal、ワイン80mlは60Kcal、ウイスキー30mlは75Kcalです。お酒の量を計算に入れて、目標のエネルギー量を維持してゆきます。つまり、糖尿病患者での大酒を飲むことは控えなければなりません。
- 外食は一般に味が濃く、量も多めですから全部を食べず、少し残す勇気も必要です。またコンビニ弁当は、肉の揚げ物が多く、食材も偏っていますので、なるべく控えたり、食べ残すことに気をつけましょう。
- 野菜ジュースは含有果汁の%や糖分に注意し、コーヒーや紅茶のペットボトルは糖分に気をつけましょう。最近ではカロリー制限が十分できない場合、ペットボトルの多飲もあり、ペットボトル症候群ともいわれます
- 最後に糖尿病患者が健康的な生活を営むためには・・・・糖尿病はコントロールする病気です。血糖のコントロールが良ければ、健康な人と同じ生活ができます。おいしく・楽しく続けましょうと締めくくりました。
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フロアーからの質問も出されました。果物が大好きで、夕食後に沢山食べますが、このことを続ければ糖尿病になるでしょうか?それに対し、糖尿病でなければ、関係ないとの答えでした。
最後に演者と宗像先生のパネルディスカッション的な総評がありました。栄養価の高い食品に対し、あれもダメ、これもダメと厳密にやり過ぎると楽しくないばかりか、逆に低栄養になってしまうことに留意しましょう。元気で健康な生活を送りましょうということで公開講座はお開きとなりました。 |