公開講座 健康の集い
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公開講座
第20回 「健康の集い」開催報告
「高齢者と皮膚疾患~かゆみと皮膚がん、そして乾癬のお話」
「高齢者と皮膚疾患~かゆみと皮膚がん、そして乾癬のお話」 開催報告
第20回目の健康の集いは、平成25年11月9日(土曜日)の午後、武蔵小杉駅の近くのユニオンビルで開催されました。テーマは「高齢者と皮膚疾患、かゆみと皮膚がん、そして乾癬のお話」で、講演者は日本医科大学付属病院武蔵小杉病院皮膚科部長の安齋眞一教授でした。
当日は穏やかな小春日和でした。受付の1時間も前から、熱心な聴衆が参集し始め、開演時には約100名の聴衆で、会場はほぼ満席に近くなりました。以下に講演内容を報告します。
(講演されている安齋先生)
講演は3つのパートに分けられて話されました。
①
かゆみのお話:年寄りの湿疹・かゆみの対処法、
②
皮膚がんの話:湿疹に似た皮膚がん・紫外線は怖い・ほくろの癌、
③
乾癬のお話:日本人には少ないとのことでしたが、最新の治療法のお話でした。
- 先ず年寄りの湿疹については病名では「皮脂欠乏性湿疹」と言い、皮膚角化細胞の産生する脂質(セラミド、脂肪酸、リン脂質)が減少し、外的刺激に対する防止機能が弱まるために起こる湿疹です。外的刺激により表皮や真皮で炎症が起こり、かゆみ、発赤、かさかさ、ぶつぶつを伴う状態です。好発部位は脛から太ももで、症状が進むと背中や上肢、身体全体に広がります。はじめは冬に症状が出やすく、夏には軽快しますが、だんだん悪くなると一年中出るようになります。湿疹の原因は外的因子として薬剤、化学物質、花粉、ハウスダスト、細菌、カビ、虫刺されなどです。内的因子としては、汗、アトピー素因、アレルギーなどです。炎症が起こると、ヒスタミンなどの化学伝達物質が白血球から分泌され、神経が刺激され、かゆみがでます。
- 対処方法としては以下のことに注意します。皮膚表面から皮脂をなるべく取り去らないようにします。いかなる形態の石鹸も使用しない、こすらないこと。環境の湿度をなるべく保つ・・・こたつや電気毛布は乾燥する,風呂や暖房、飲酒などは温まるので、かゆみを増強させます。必要であればクリームや尿素軟膏で保湿する、湿疹が起きていれば副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)の外用剤やかゆみ止めの内服剤を利用します。ステロイドは副作用が怖いとしきりに言われていますが、外用剤であれば、医師が適切に指導すればきわめて安全です。軟膏の塗り方は、すり込んではいけない…軽くスーと置くだけにする。かゆみがひどい時には、冷やすのも痒みを軽くします。
- 皮脂欠乏性湿疹やアトピー性皮膚炎と似た症状を呈する病気に、疥癬があります。ヒゼンダニというダニが皮膚の角質に寄生して起こります。昔は多い病気でDDTなどで殺ダニをしました。人と人の接触や、寝具の共用により伝染するため、施設などで集団発症をすることがあります。熱や乾燥に弱い(50℃、5分で死滅)ので、寝具を日光にあてるとかで対処します。痒みなどの症状は、湿疹と同じように外用剤や内服薬で治療できます。
- 次いで皮膚がんの話をされました。湿疹に似た皮膚がんとして、日光角化症、ボーエン病、パジェット病があります。日光角化症は顔や腕などの露光部に生じる皮膚の早期がんで、紫外線により細胞のDNAに傷がつき、発症するといわれています。70歳代後半に多く発症し、10年間に10%程度が進行がんに移行する。治療としては手術的摘出、軟膏剤による治療、液体窒素による凍結治療などきちんと治療すれば何の問題もない。
- ボーエン病は、非露光部に起こる湿疹や紅斑を伴う早期がんで、治療も日光角化症に準ずる。
- 多くの皮膚がんは日光の紫外線が関係しているので、“紫外線は怖い”が、その機序はヒトの遺伝子DNAを壊してしまうほかに、がん抑制遺伝子も壊して、がん化を進めてしまいます。紫外線により日焼け・シミの原因ともなります。紫外線の悪さを防ぐのは、メラニン色素です。したがって、紫外線を浴びることは、百害あって一利無しなので、避けるべきでする。日の出ている時は外に出ない(散歩などでは昼より早朝)、帽子・日傘・長袖、日焼け止めを塗るなどの対処が必要です。
- ほくろと癌の関係で、悪性黒色腫(メラノーマ)を紹介しました。このがんは、一般的には進行するとかなり悪性度が高い腫瘍です。
- 白人に多く発症し、オーストラリアでは10万人当たり47人、チェコでは10人に対し、日本人では2-3人であり、東北・北海道より九州・四国の方が多いようです。黒人はより少なくなるが、アーリア人のインド人は黒い肌に順応しているので、0.5人と低い発症です。日本では60-70歳代に一峰性のピークがありますが、20歳代で7分の一、30歳代でも3分の一が発症します。
- 発症部位:頭頸部15%、上肢21%、体幹13%、下肢48%、その他(足の裏など)3%です。
- 良性のほくろも悪性のがんも、ほとんどが生まれた後にできます。ほくろは幼児期にでき始め、40歳代まで増加します。
- 良性のほくろが、後から癌に変わることはありません。但し、小さな病変の場合、判別が難しいですが、強大な先天性の黒あざの中に、ほくろの癌ができることはあります。
- 日本人の手足には良性のほくろが多く、ほくろが出たからといって心配する必要はありません。
- 心配しなければならないほくろ:悪性黒色腫:大型の皮疹で、最大径が7mm以上で、不規則な形状(左右が非対称)、多彩な色調で黒褐色だけではなく、淡褐色から濃黒色まで無秩序に見られ、まれには灰白色、紅色、灰青色まで多彩な色調を帯びます。不均一な境界で不鮮明な個所もある。注意すべきは、ほくろが拡大して隆起し、びらん・潰瘍化する病変です。
- 3つ目の話題は、乾癬の話です。乾癬とは原因不明の炎症性角化症で、日本人の有病率は0.1-0.2%、男女比は2:1で男に多く、男では50歳代・女では20歳代にピークがあります。病名としては尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬など5種類がありますが、肘・膝・関節などに、角質が肥厚した紅班起こり、半数の人で痒みを伴います。乾癬は、リウマチなどと同じく自己免疫疾患です。
- 乾癬全体の90%は、尋常性乾癬で紅色の角化症で、拡大・融合してゆくと症状が重くなります。ステロイドやビタミンDなどの外用剤、ビタミンAや免疫抑制剤などの内服薬、光線療法なで治療し、症状を改善することが出来ます。
- 厄介な乾癬としては、関節症性乾癬です。関節のところに皮膚症状が出るほかに、関節の腫れ・痛みを伴いますので、日常生活に支障が出てきます。この治療には、最先端の遺伝子工学技術(バイオテクノロジー)によって開発された生物学的製剤を注射することにより、症状を改善させることが出来るようになりました。炎症を起こす体内物質(サイトカイン)に結合して、炎症を抑えます。
最後に「今日覚えて帰ってください」という要約のスライドを示されました。
- 年を取ると、乾燥肌が起こり、湿疹が起きやすくなる
– 石鹸を使うのはやめましょう - かゆいときにぜったいかいてはいけないという考えは捨てる
- 湿疹やほくろに似た形の皮膚癌がある
- 皮膚癌の発生には紫外線が大きく関わるので、紫外線には極力当たらない
- 乾癬という病気があって最近は良い治療法が出てきました
講演後、6人の方々から質問が寄せられ、安斎先生は一つ一つ丁寧に答えられました。
<報告者:湧口 泰昌>