講演タイトル: 認知症を理解して正しく付き合う
平成23年11月12日(土)の午後、天気予報では雨が懸念されていましたが、予想が外れて小春日和となりました。それでも熱心な市民の方々が2時間も前から武蔵小杉駅近くのユニオンビルに続々と集まって来ました。 開演前には会場の定員160の席は満杯となりました。聴衆は一般市民の他に、ケアマネージャー、看護師、鍼灸師、医師等の医療関係者が出席していました。 今回のテーマは「認知症」で、Ⅱ部構成の講演となりました。Ⅰ部はこれからのアルツハイマー病の薬物治療で、北村伸教授(日本医科大学武蔵小杉病院内科認知症センター)が務められた。 Ⅱ部は、介護の現場から“高齢化先進国のスウェーデンの事例を交えて”という題でグスタフ ストランデル氏(介護付有料老人ホーム舞浜倶楽部総支配人、元スウェーデン福祉研究所所長)が話されました。 会の冒頭に、川並汪一社団法人老人病研究会会長から、挨拶がありました。“健康の集い”の啓発講演会も、過去5年間で15回を数えるところとなり、地域社会ですっかり溶け込んだ感がすること。街ぐるみ認知症相談センターの活動も、4年半を経過している。来年2月11日、エポック中原で認知症市民公開講座“都市部での認知症の治療とケア~脱無縁社会へ・川崎での取り組み~”が開催されること。文科省の研究支援は来年春で終了となりますが、4月以降も街ぐるみ認知症相談センターの活動は、日本医科大学の理解も得て続けられることが話されました。 以下、講演されたお二人の話を紹介します。 |
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Ⅰ部 北村先生のお話: |
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・冒頭に、アルツハイマー病について、簡単に解説しました。 ・アルツハイマー病の始まりはもの忘れです ・周りの人は、歳のせいと思っています ・本人は、病気であるという自覚がありません ・わからないことや間違って答えたことについて、つじつまを合わせたり、とりつくろうとします もの忘れは、加齢に伴って誰にでも起こりますが、アルツハイマー病では生理的な老化と異なり、病的に進行してきます。そのため早期発見が必要です。 薬物治療については、中核症状と周辺症状について話された後、認知症の患者様が、なじみの人達と住み慣れた所で安心して暮らすには、介護の重要性、社会資源の利用も必要になることを紹介しました。 以下順次「中核症状の薬物治療」の話を進めました。昨年までは、エーザイのアリセプトしか使えませんでした。ところが外国では、アリセプトの他に3剤が使われており、今年になって日本でもこれらの新薬が使えるようになりました。言わば、認知症の薬物治療に選択肢が増えたことになります。以下に一覧表を示しました。 アリセプト、レニミール、リバスタッチパッチ(イクセロンパッチ)の有効成分はアセチルコリン分解酵素を阻害する働きで、神経伝達物質のアセチルコリンの脳内濃度を高める作用です。アリセプトとレニミールは経口剤ですが、リバスタッチパッチ(イクセロンパッチ)は皮膚に張る薬ですが、2社から発売されているために二つの商品名となります。 メマリーは、NMDA受容体を阻害する働きの薬です。承認されている適応症、用法用量、剤形、副作用等について紹介しました。いずれの薬も認知症の進行を遅らせるもので、根本的な治療薬は目下世界中で開発競争をしています。 どの薬にも薬の効き方には個人差があるのは当然です。アリセプトを使用していますと 置き忘れが減った、簡単な料理が出来るようになった、自分から気づいて草取りをするようになった、ベルが鳴ると電話をとるようになったなどの症状の改善も報告されています。 又、同じは働きの薬を併用することは、効果の増強にはなりにくいですが、アリセプトとメマリーは併用することができ、症状の改善が相加的になることも外国で認められています。 周辺症状(暴言、暴力、幻覚、妄想、介護への抵抗など)の治療には、主に精神科で使われる薬が有効性を発揮する場合があります。グラマリール、非定型抗精神病薬(クエチアピン、リスペリドン,オランザピン)、抑肝散などが処方されています。 • 認知症の人を支えるためには、家族・市民が認知症について理解を深め、さらには、地域包括支援センター 、社会福祉協議会、介護事業所などの行政との関わりや連携が必要でしょう。又介護保険の利用 、成年後見制度などの社会資源の利用なども大切です。 最後に、認知症は早期発見が重要であり、この地区での“街ぐるみ認知症相談センター”と4年半の実績を紹介されました。この活動は来年3月以降も日本医科大学の支援を受けながら、活動を続けることを話されました。 講演が終了後、フロアーから5人の方々が質問され、北村先生は皆さんに丁寧に分かり易く答えられていました。 |
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第Ⅱ部、グスタフストランデルさんのお話: |
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グスタフさんは、49歳で日本語がペラペラです。高校生の時に日本に交換留学生として來日、勉強の傍ら剣道にものめり込み、後に剣道2段を取得。その後、スウェーデンと日本を行ったり来たりでストックホルム大学を卒業、スウェーデン福祉研究所、日本スウェーデン社会サービス研究センターなどに関わって来ました。日本の社会福祉施設も300カ所以上も訪問、調査、講演等をこなしており、NHKや教育テレビなど出演したり、書籍「私たちの認知症」を出版されています。 認知症の患者さんが、自分らしく生きるすなわちQOLを高めるためのケアツリーを提唱し、スウェーデンの福祉文化を日本に伝えるための伝道師として活動をされています。 認知症の介護ケアに関して、根は社会・理念、樹は社会制度・経済、枝は環境・ハードとソフト、葉は希望・理解と連携と言う。 現在のスウェーデンの認知症ケアは極めて進んでいるが、長い歴史の上で今日にいたっている事を話されました。50年前認知症患者は、病院の数人部屋で寝たきりでの治療でした。暗い、暗い人生の末期を送っていました。その後、認知症患者のQOLを上げるには、家族だけでなく社会全体として支えて行く介護の考え方が浸透してきました。 病院で暮らすより、グループホームで複数の患者さんが個室で生活し、共用する場所を設けて患者同士や家族との交流することに変わってきました。自宅でない在宅(グループホーム)で日常生活を過ごしながら、非日常的な刺激を受けること大切です。今やグループホームは、ストックホルム駅の近くの街中にも、郊外にも建てられている。日本での高齢者の住まい方は、子どもや孫たちとの同居がどんどん減りつつあり、1983年では45%であったものが、2003年では15%までに落ち込んでいます。しかも高齢者の別居している子どもとの接触頻度は、日本とスウェーデンでは、大きな開きがあるとのこと(下表参照)。
(日本内閣国際比較調査) 日本では、今後ますます同居家族が減り、無縁社会の到来?子どもとの交流も少なくなる が心配されます。 現在、スウェーデンの介護の現場で、寝たきり老人が熟創(とこづれ)を発症したら、適切なケアをしていないことが悪いということで、医師が訴えられる法律(Sarah法)もあります。 認知症緩和ケアの四本柱は、①症状のコントロール②チームワーク③家族支援④コミュニケーションと関係です。 「コミュニケーションと関係」を助けるものとして、タクティール療法があります。タクティール療法とは、介護のする人が患者の手を握ったり、さすったりしながら話しかけをして交流する方法で、患者さんが癒されたり・安らいだり・痛みや周辺症状が改善させることが出来ます。タクティール治療士は、研修終了後認定資格を持ちますが、今や認定者は、全国に5000人に達しています。 またブンネ法も有効な手段です。複数の患者が、ブンネという楽器(小さな箱に4本の弦が張ってある)を撥(ばち)でたたきながら、合唱する方法です。メロディーは、ギターやピアノなどでします。 世界保健機構(WHO)における緩和ケアの理念は以下のように規定されています。「もはや医療的には完治することができない病気とわかったときには、それ以降は不必要に延命的なケアを行わずに、患者や家族を大きなマントで包み全人的なケアを行い、患者や家族に可能な限り最高のQOLを享受してもらうことを目標にする」。「人生を肯定し、死を自然な過程とみなす生命観」が反映されています。 最後に、舞浜倶楽部の二つ施設を紹介し、そこでの心のこもった介護状況を動画や写真で 示されました。 |
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<文責:湧口泰昌> |
開催概要
日時 | 平成23年7月2日(土) 午後1:30~3:30 |
会場 | ユニオンビル 地図はこちらをご覧下さい ◆ユニオンビルアクセス◆ |
参加者 | 85名 |
料金 | 無料 |
共催 | 社団法人老人病研究会、中原区医師会、大鵬薬品工業株式会社 |
後援 |
日本医科大学武蔵小杉病院、川崎市医師会、小杉町一丁目町会、 中原区老人クラブ連合会 |